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ユーザー通信205号「新素材」だが決してマイナーではない『シリコロイ』の知りたいこと

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このところ切削工具では、積層造形(3Dプリンター)を盛り込んだ製造技術の実践が決して特異ではなくなり、従来とはまったく違った設計を可能にし、新製品を誕生させている。3Dプリンターの造形材料(樹脂粉末や金属粉末など)市場は、来年2020年には2070億円規模に成長(矢野経済研究所)するともいわれ、日本での粉末合金の開発が盛んに行われている。
巷間、そんな中でも存在感を示しているのが、『シリコロイ金属粉末』だという。そのメーカーである日本シリコロイ工業(兵庫県赤穂郡上郡町)に、清水孝晏社長を訪ねてみた―。

訪れたのは関西屈指の高原別荘地。山荘とも洋館とも思わしきたたずまいは、いかにも「研究室」を彷彿とさせる。清水社長は常務の清水博之氏とともに迎えてくれた。

シリコロイ(学術名=高珪素ステンレス鋼)とは、耐熱性・高強度・高硬度など相反する特性を兼ね合わせた「オールマイティなステンレス鋼」のこと。

清水社長は、「シリコンのたくさん入ったステンレス鋼『シリコン+アロイ』。シリコンを多く添加しカーボンを低くして抑えて溶解、これが特許の元」とまずふれた。

 

これまでは鋳造、鍛造で製作されてきたが、このたび、MIM(金属射出成形)、溶射、そして粉末積層造形(3Dプリンター)等での適応が見込まれる『シリコロイA2金属粉末』を開発した。その後B2:D:を製作。だが「新素材」とはいえ、シリコロイ自体の歩みは結構古い。「ここに至るまでに45年」という、これまでの製品例、応用例を紐解いていく。

その源流は1962(昭和37)年、シリコンによる鋼種開発に着手(故・太田鶏一関西大学名誉教授)し、68(昭和43)年には高珪素鋼A鋼、B鋼を完成。当時の応用製品はスクリューや線材だった。

清水社長は76(昭和51)年に独立し、現在の日本シリコロイ工業を設立。ほどなく、道路公団の耐食高硬度ローラーとしての「シリコロイA2鋼」を開発、超大橋の支承ローラーへの採用という最初のヒットを放つ。支承とは、いわゆる「橋の支えローラー」のこと。

「橋梁軸方向の熱膨張による伸縮を吸収し、例えば、4つの支承で4500tもの高荷重を支える必要があり、当時、道路公団は『錆びなくて、強くて、固いもの』を条件に、超大橋の支承部分の材質を探していた」。

錆びないだけならステンレスがあるが、高硬度と靱性を兼ね備え、衝撃にも耐えるのはシリコロイのみの特性であることから、日本支承協会認定材(C13B2)となり、やがては、瀬戸内海の600の橋に採用されるに至った。

それを証明するかのように、95(平成5)年に発生した阪神淡路大震災では、「倒壊した支承を2か月後に引き上げた際には、シリコロイには錆びがないどころか無キズ、そのまま再使用できるほどだった」という。

 

また79(昭和54)年には、大手製鋼所での連続鋳造用ローラーの高温で最も苛酷なフットローラー部で採用され、次なるヒットとなった。

「当時は、1620℃・250tの溶湯に耐えるローラーの材料はなかなか存在せず、それまではふつうの鋼材にメッキ加工などで凌いでいたそうだが、橋の支承同様に、錆びず、耐摩耗性に優れ、ステンレスの約6倍の寿命をみせたことから、2年間で700本ほど納入した」と述懐する。

 

これにより、支承ローラーと連鋳ローラーの水平展開を考えていたところ、同じく79年には、連鋳ローラー用のシリコロイ製『球面ベアリング』の開発へと波及した。

 

「従来は1、2ヶ月でベアリングの交換を行っており、その都度に連鋳ローラーを解体しなければならず、多大な労力がかかっていた。ところが、ボールベアリングに比べ30倍の寿命の球面ベアリングによって、1年間はメンテナンス不要という解決がもたらされた」。

そのエキスとなったのが耐熱性、耐食性、高硬度、耐カジリ・焼付性のバランスに優れる特性。以降、連鋳用シャー刃、ピローブロックと、シリコロイの用途は拡大していった。

「『鋳物』であることは本来、ステンレスに比べ強度は弱いものだが、シリコロイは鋳物でステンレスの4倍ほどの強度があるということで、発電用脱硫装置やプレジャーボート・淡水化装置のスクリュー、真空ポンプ、また超低温用材料としてもすぐれた特性がある」ことが矢継ぎ早に実証されていった。

シリコロイのキャッチフレーズを、「薄肉で高強度、環境用材料の鋳物が簡単に、たくさんつくれること」と表現する清水社長。線材、板材、パイプ材、鋳造、鍛造、溶接といったラインナップに加わったのが金属粉末だ。研究で得られた機械的性質の数値は、積層造形法で金型等の製造に用いられるマルエージング鋼に匹敵する値が示された。

「幸い、引張強度1800N/2㎜というステンレスの6倍の高強度が実証されており、これは限りなく世界一レベルであり、世界的価値がある」。

このように、苛酷な用途の金属部品に新素材として重宝されるシリコロイ。清水社長は「ゆくゆくは製鉄所の心臓部分も手掛けたい」など、今後、バルブ・ポンプなどはじめ、多彩な分野への応用が期待される。そのなかには「工作機械部品」も視野に入るといえる。

「シリコロイは耐摩耗性や耐食性といった強度に長けている。それが工作機械のどの部分かといえば、一番適するのはシャフトだろう。また、射出成形機のシャフトやエレメントのねじも、いずれは3Dプリンターでつくりたい」。

 

今後は特に、従来のSUS630やマルエージング鋼といった折出硬化系での対応が難しい環境下での用途拡大が見込まれているシリコロイ。「新素材としてトライしてみませんか!」と、清水社長による用途拡大の呼びかけは続く―。

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