ユーザー通信232号1面・2面 コロナ禍で迫られる変革をチャンスと捉え 「3D製造プロセス検証」に挑戦! 立花エレテック事務局
コロナ禍で迫られる変革をチャンスと捉え
「3D製造プロセス検証」に挑戦! 立花エレテック事務局
「Kansai-3D実用化プロジェクト」(近畿経産局)が成果発表会
第1弾(3月)は大手5社・中小4社が、第2弾(5月)は中小8社のモデル企業が検証結果を発表
国内製造業が「3D技術を本気で活用」する大きなキッカケづくりとなったか!
近畿経済産業局が主催し、立花エレテック(本社=大阪市西区、渡邊武雄社長)が事務局を務める、『Kansai-3D実用化プロジェクト』では、全国38社のモデル企業を対象に、国内外の3Dプリンタ関連企業(支援企業)27社、支援機関の協力のもと、3D製造プロセスに必要なデザイン・設計、3D造形、評価までのプロセスの導入検証を支援する日本初の取り組みを実施している。
この38社のうち、コロナ禍で迫られる変革をチャンスと捉え、切削、鋳造、樹脂、金型、冶金、溶接等の各業界となるモデルとなる企業9社(大企業5社、中小企業4社)が今年3月15日、大阪工業大学・梅田キャンパスを会場に、独自の目的をもって挑戦した3D製造プロセスの検証結果を第1弾として発表した。
このイベントには全国から650人を越える参加登録があり、当日は約500名(リアル+オンライン)が参加した。
さらに5月17日には第2弾として、コロナ禍の影響から完全オンラインでの開催に変更(動画撮影は初回と同会場で実施)されたものの、モデル中小企業8社の成果発表会が無事に行われた(全国から690人を越える参加登録、当日は約500人が参加)。
この2回にわたる成果発表会では、具体的な企業3Dツールの検証結果について「生の声」で、良い面、悪い面がリアルに発表されており、それゆえに、同じ業界にいる企業に「自分事」として響く内容が見てとれた。日本の製造業が「3D技術を本気で活用」する大きなキッカケづくり、試金石になればと願うばかりだ。
なお、成果発表を行ったモデル企業は次のとおり。
《第1弾》中北製作所(大阪・大東市)/ナパック(長野・駒ケ根市)/日本シーエムアイ(滋賀・湖南市)/瀬尾高圧工業(大阪市)/南信精機製作所(長野・飯島町)/OKK(兵庫・伊丹市)/加地テック(大阪・堺市)コニカミノルタ(東京・千代田区)/山本金属製作所(大阪・八尾市)。
《第2弾》前澤金型(福井・鯖江市)/AeroEdge(栃木・足利市)/因幡電機産業(大阪市)/丸栄工業(愛知・岡崎市)/岡田シェル製作所(兵庫・淡路市)/ロボコム・アンド・エフエイコム(東京・港区)/太洋アルミ鋳造(兵庫・尼崎市)/日本ワヰコ(大阪市)。
協力3Dプリンタメーカーは、DMG森精機、松浦機械製作所、三菱重工工作機械、三菱電機、TRUMPF(独)の5社。
各社発表の中から、まず「良い点」について、本紙の特性上、切削加工や金型、工作機械といったカテゴリーに目をやれば、金属加工時の切削屑を抑えられる利点もあり、金属3Dプリンタ技術はそう遠くない将来、金属加工におけるひとつのカテゴリーになり得ると考えられる。
また、アフターサービス事業の観点で考察すれば、工作機械メーカーではユーザーサポートのためのサービスパーツをかなりの量、在庫しているが、AM(アディティブマニュファクチャリング=積層造形)技術を活用したオンデマンド生産が可能になれば、保管、物流コスト等が削減できると期待される。
このように、3Dプリンタの将来性は大きい。しかし、設備導入または製造委託するにしても、品質に対するレベルや考え方に各社の認識が異なるように感じられた。現時点で中小企業が単独で積極的に取り組むには、まだ敷居は高いのだろうか? 「今後の課題」とされた報告に注視し、次ページで分野別に列記してみた。
【鋳造】▽ロット間のバラつき、熱処理条件の最適化、強度、靭性など品質に関してはさらなる検証が必要▽機能形状の設計は人がトライ&エラーで設計しているため、設計の自由度を活用したトポロジー(位相幾何学)最適化も検証。
【冶金】▽バインダジェット造形物は変形量が大きい。焼結品普通許容差に適用すると並級程度である▽再圧縮をする予定だったが、モデル寸法に対して大きく外れていたため、造形物を金型へ入れることができなかった。
【溶接】▽AM(アディティブマニュファクチャリング=積層造形)造形したノズル内部で溶液棒が過度に温まり、柔らかくなりすぎて、十分に溶接棒を母材に押し込めず溶接強度を得にくい▽AMノズル先端が熱で温められた溶接棒の表面を削ってしまい外観を損なう。
【鍛造】▽規制産業(航空・宇宙、医療、プラント)にAMを適用しようとすると、標準化が必要となり、現在、AM関連規格の標準化に向けた準備を進めている。
【金型】▽金属3Dプリンタ技術は発展途上であるゆえに、「加工機×条件(業者)×材料(メーカー)」の組み合わせ次第で、意図しない異なるモノが出来上がる可能性もあると感じた。
【切削】▽品質における良否判断については、現状、3D積層造形ユーザーによる保証となっているため、業界としての規格の制定を望みたい。
【鋳造】▽3Dプリンタで製作した砂型の崩壊性に難がありと分かったが、一方で砂の強度があったと考えられる。
【樹脂】▽従来設計のまま工法を置き換えるとコスト高となる可能性大。
【切削】▽サポート材の有無・除去について造形コストのさらなる検証。造形機種を変更しての造形検証(電子ビーム方式)。
【プレス・金型】▽銅合金の成形については多くの課題が見つかった▽サポート材の除去や成形精度など実用化には改善が必要。
【鋳造・切削】▽材料の日本調達によるコストダウンの検討。
□ □ □
なお、3D積層造形を前提とした専用設計において、キーワードとして「ジェネレイティブデザイン」(=従来の設計思想ではない新しい気付き)が複数の検証内容で挙がっている。
2021年6月30日