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ユーザー通信232号 8面:安田工業「Labonos」の現時点

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本紙1~2面では、Kansai-3D実用化プロジェクト成果発表会のようすを取り上げているが、一方では、「3Dリアルトランスレーションシステム」なる画期的、かつ唯一無二の3D造形ソリューションが存在する。それが安田工業(本社=岡山県浅口郡里庄町、安田拓人社長)の『Labonos LDR 200』(ラボノス/以下、Labonos)だ。2017年のメカトロテックジャパン(MECT)での参考出品を経て、19年2月に正式リリースしたLabonosの「現時点」を、同社開発部 新規事業開発課の松本直宏氏にリモート取材した。

【聞き手=本紙・植村和人】(敬称略)

 

デザイン・機能評価試作、樹脂型、在庫保有のDX改革に能力発揮

 

―MECT2017での初登場時は、一見、業務用冷蔵庫? と見間違えそうなその外観に、謎めいた機械だなと感じたのは記憶に新しいですが、その正体は「切削加工機」でした。当時以来、試作やモデリングといったニーズにおいて、実際のモデルをつくり出す「仕組みを装置化したマシン」と理解していますが。

松本 簡単にいえば「3Dプリンターのように気軽に扱える切削加工機」です。本質的には中身のシステム(ソフトウェア)がメインになっていますが、機械としてカテゴリーすれば切削加工機となります。造形機ではありますが、3Dプリンターのような出力方式ではなく、切削に置き換えて(トランスレーション)いるシステムです。3Dプリンターは上部からどんどん積層造形していくのが一般的なイメージですが、Labonosはひとつの樹脂ブロックなどから切削工具を使用し、削り出します。

 

 

―3Dプリンターとは果たして「手軽」なイメージなのでしょうか? 逆に「敷居が高い」イメージが先行している気がします。

松本 確かに設備導入、投資の意味で手軽なイメージがあります。私の中では、モデラーさんがつくった3Dモデルのデータをそのまま使うことで、標準的な設定であればすぐに出力できるという部分で簡単さ、手軽なイメージがあります。
一般的な工作機械では3Dモデルがあっても、最大の難関である加工プログラム、CAM機能を通じた最適なツールパスの作成など様々なノウハウ、熟練作業者の能力等がなければ、実際に加工することができません。Labonosはそういった大変な部分をソフトウェアで解決することにより、加工を簡単にしています。

 

 

―「3Dプリンターの優れた部分を切削加工でやってしまおう」というわけですが、登場当初は、リードタイムの短縮を見据えた製品化も視野に入っていたと思いますが、実際にはどうでしょう。

松本 一概に表現するのは難しいですが、3Dモデルを用意してから実際に加工物を手にするまで、3Dプリンターはモデルを用意するところは同じですが、出力の所要時間、サポート除去、面品位の仕上げ処理(やすりがけ、溶液に浸すなど)等、造形物における後処理の工程を考えれば、トータル時間では3DプリンターよりLabonosのほうが短時間だと思っています。

 

 

―開発のきっかけ、発想の原点は。

松本 3Dプリンターでの造形で、手軽に試作モデルや開発モデルがつくられるようになりました。しかし前述のような後処理の手間、そして装置の制限により最終製品と同じ材料(ポリエチレンやエポキシ樹脂等々)が使用できるとは限らないという2つの「困り事」があり、なかなか試作開発のステップアップが進まないとの事情を聞いていました。これら試作開発担当者の困り事を改善することが開発に至った経緯になります。

 

 

―Kansai-3D実用化プロジェクト成果発表会でも論じられた、3Dプリンターの量産機としての活用が進むかどうかに対する見解は。

松本 個人的には「進む」と思っています。なぜかといえば、一体型など新しい形状や構造の最適化といわれる「新しい設計手法」に加えて、環境にやさしい等の新しい材料を試しやすくなるので、量産化に使う方向に進んでいくのでは思っています。

 

 

―「新しい設計」という考えは、その成果発表会でもキーワードとして挙げられた「ジェネレイティブデザイン」に通じます。
ということは逆に、現状のAM(アディティブマニュファクチャリング=積層造形)業界では、比較対象の意味でLabonosの存在感がより活きるのだと思いますが、今後、3Dプリンターの量産対応いかんでは、Labonosの立ち位置や状況も少し違ってくると思いますが。

松本 そうなった際は、市場の状況にもよりますが、求められることが変われば、3Dモデル自体も変わっていくでしょうし、Labonosの機能も変えていくと思います。

 

 

―これまでの展示会出展等や顧客の反応、興味どころはどのような感じでしょう。

松本 やはり簡単に切削加工ができることですね。同じ3Dモデル、同じ適応材料が使えることによって、機能の検証、耐油性や耐薬品性、耐候性などが「見える」ことと、3Dプリンターでは明確には確認しづらいツメのはめ合い具合などの「精度感」に評価をいただいています。

 

 

将来的にはAI取り込みでさらなる自動化推進へ

 

 

―今のところ、まず試作開発部門にターゲット市場ありきになりますが、将来的にはこう変わっていくだろうと思う点や課題について。

松本 業界的には現状、デザインや機能の評価試作、それに金型の樹脂化といった用途で能力を発揮できますが、樹脂型で「少しの量産品」が欲しいような部門、量産に使える部分に関しても検討中であり、試作開発だけではなく、多品種少量の部品加工、また在庫保有をDX(デジタルトランスフォーメーション)で改革を求めているユーザー様への取り組みも考えていきたいと思っています。
課題としては、一部の手動設定が残っている部分があります。そこは加工を熟知していない人にとってはイメージしづらい部分でもあるので、AIの取り込みなど、自動化できるような仕組みを考えており、より使い勝手の良い、品質の良いものを提供できるように考えています。

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