ユーザー通信230号 ヤマシタワークス 山下健治社長インタビュー
ヤマシタワークス 山下健治社長インタビュー
コロナ禍でも創業以来最大の2億円を投資
躍進目覚ましい医薬品用金型需要
「鏡面仕上げに特化」ゆえ狙えた2本目の柱
この3月27日に、ヤマシタワークス(兵庫・尼崎市)では新規設備導入の一気呵成があったと聞き、早速、翌々日に馳せ参じた。
その日はまだ機械メーカー数社のサービスマンが機械の調整作業に臨んでいるなど、まさに「入りたて、ホヤホヤ」の現場だったが、そこで新たに確認できた陣容は、精密平面研削盤(岡本工作機械製作所=写真Ⓐ)、形彫放電加工機(ソディック=写真Ⓑ)、立形マシニングセンタ(牧野フライス製作所=写真Ⓒ)、CNC旋盤(オークマ=写真Ⓓ)、測定機(キーエンス)の姿だった。
伊丹工場(第3工場)の自動プレス機と合わせれば、都合6台もの新規導入となったが、現在のコロナ禍で、「総額2億円、創業以来最大の投資」だと山下健治社長は話す。加えて直近の業績も「昨年9月からはずっと前年比100%超の伸長」で推移しているという。
金型品質向上事業を標榜するヤマシタワークスは、金型および部品の製造販売を主に手掛け、自社開発による鏡面加工装置『AERO LAP』(エアロラップ)の製造メーカーとしても有名だ。さらに近年では、医薬品用金型(錠剤用杵臼)の製造販売においても躍進が目覚ましく、まさに自動車向け金型と医薬品用金型が両輪化しているが、それはかつてのリーマンショックに起因する。
コロナ禍を語る時、どうしても、リーマンショック時を述懐することが多いが、山下社長の捉え方はこうだ。
「当社にとってリーマンショックは、結果的には良かった。世間の皆は、長引くよ・・・と悲壮感いっぱいだったが、当社のそれまでの需要が自動車向け金型一辺倒だったのが、これを機に、全く異なった良いユーザー層、業種を『狙う』ことができた」。
現在では自動車向け金型と医薬品用金型の需要は、「ほぼほぼ、半々」にまで至るというが、その先駆けとなったのがこの時期だった。
自動車向けで揉まれ、培ってきた金型製造の技術を以て、医薬品用金型に特化すれば、「我々よりも高品質な医薬品金型を製造できるところは、まずない」と自負する山下社長は、今後の同需要の取り込みについても「間違いない」と断言しつつも、こう強調する。
「『ものづくり屋』は難しい。最も辛いところは、営業職やIT関連等と違って、仕事が集中すれば、必ず『場所』と『設備』と『人』が必要になるところだ。ただ、設備によっては従来10人要していた仕事が5人で済む、5人が3人になることもあるが、間違いなくそういった繰り返しが必然となる。ものづくり屋は加工する、つまり、物を変化させ、その商品が動くので、ネット社会のようにWeb空間の中で物事が終始するわけではない」。
そういった背景を鑑みた時、「リーマンショックがなければ、医薬品用金型に手は出せなかった」と振り返る。
一般的にリーマンショックの訪れは2008年9月だったといわれるが、実際にヤマシタワークスにその波が押し寄せたのはその年の12月末だった。
状況が悪化する周囲をよそ目に、リーマンショックの影響は「ウチには来ないな」とさえ考えてもいたが、サイクルでいえば2~3週間の金型を手掛けている中で、11月末頃からは「やはり、これはちょっと・・・」との思いがよぎるようになった。
しかし、そんな折での製薬会社へのアプローチが「ラッキーだった」。この頃は医薬品メーカーにおける、いわゆる2010年問題や2011年問題と呼ばれた「主要な医薬品の特許切れ」による新薬メーカー(ジェネリック医薬品)の需要が激増する傾向にあったからだ。
このタイミングで製薬メーカーとの直取引に攻勢をかけた。この頃は、研究所の依頼により医薬品金型を製造するとなれば約3ヶ月は要するという世界であり、「それを通常で2~3週間、急ぎなら10日間で仕上げる、これが当時の医薬品用金型の世界では『ありえない』ことだった」。
医薬品メーカーにとっては2、3日出荷が遅れるだけで、何百億円もの損失を生むだけに、山下社長は需要の拡大とともに「使命が与えられた」と確信し、その「備え」に出た。
「なぜなら、自動車産業がこのままずっと鍋底状態のわけがない、1年後には必ずV字回復してくる。医薬品用金型の需要は必ず来るので、これが重なれば大変だ、どうするのか、という心配のほうが怖かった」ことから、リーマンショック真っ只中にも関わらず、5人ほどの新規採用を行った。これを皮切りに以降、医薬品用金型の需要拡大に伴って会社規模も、当時は50人前後だった従業員数が今では倍増の約90人(タイ工場除く国内)にまで成長した。
「よく『2本柱』というが、それを全く異なったユーザー層、業種で狙えたことがよかった」とした上で、元々は「バフ磨き屋」を商売の源流とした山下社長は、自動車向けと医薬品用を両立できている現状を、「当社が『鏡面仕上げに特化』していること」をその理由に挙げた。
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なお、ヤマシタワークスはINTERMOLD2021(4月14~17日/東京ビッグサイト・青海展示棟)に、エアロラップ『YT‐100』の作業懐の空間がとりやすくなったマイナーチェンジタイプを出展する。
【小間番号・A‐242】
2021年4月30日