ユーザー通信226号 第5面:牧野フライス製作所 レーザ加工機事業を本格始動
牧野フライス製作所 レーザ加工機事業を本格始動
水と空気の境界面での全反射を利用したレーザビーム照射
『LIMINIZER』2機種発表
「リーダーシップをもってこの分野に参入」(井上社長)
牧野フライス製作所(本社=東京都目黒区/以下、牧野フライス)は11月9日、オンラインによるニュースリリースにて、レーザ加工機の製造販売を開始し、本格的にレーザ加工機事業に参入すると発表した。
井上真一社長、木戸正孝EDM本部長、レーザ推進部 機械設計課の和田広之課長が発表に臨み、企画本部の草場信仁本部長が司会進行を務める中、今後、同社の有する技術ノウハウおよび販売・サービス機能を最大限活用し、国内外においてレーザ加工機の製造・販売・アフターサービスを行っていく旨説明した。
今回発売するレーザ加工機は、『LIMINIZER』(ルミナイザー)LB300/LB500の2機種。既存の機械加工では加工が難しい炭化ケイ素、窒化ガリウム、ジルコニア、アルミナ、ダイヤモンド焼結体等の脆性材を容易に加工できる優位性を有している。
水と空気との境界面での全反射現象を利用してレーザビームを材料に照射するユニークな加工機で、その原理である技術は、熱影響を抑えるとともに、水ジェットによる高効率な加工屑除去が可能となる。
これは、スイス・シノヴァ社(Synova S.A)のレーザマイクロジェットⓇ(Laser MicroJetⓇ)技術を採用しているが、牧野フライスとシノヴァ社の協力関係は、すでに2009年に共通アプリケーションの開発で確立し、牧野フライスの機械技術に基づくレーザマイクロジェットⓇ(LMJ)機械の製造で12年にはOEM契約を締結している。
特色となる「通常のレーザ加工との違い」については主に、「水ジェットが安定する範囲で加工が行われるため焦点位置の調整が不要」、「水ジェットでレーザビームをガイドしながら加工するため切断面が垂直」、「高アスペクト比(深さ/穴径)の加工が可能(※アスペクト比はノズル径によって異なる)」、「水で加工対象物を冷却しながら加工するため熱影響が少ない」、「加工対象物表面を水幕のように保護するため表面付着物が少ない」、「貫通後は水ジェットにより効率よく加工屑排出ができるため、裏面のバリが少ない」とふれた。
加工事例では、航空機エンジンの軽量化のため採用されたCMCs(Ceramic Matrix Composites)材の切断やPCD・CBN工具の高速・高品質な切断、タービンブレードの冷却穴加工や難削材として知られるSiCへの高速・高品質な穴加工、医療用途にも用いられるステント加工(材料はニッケルチタン/形状記憶合金)を紹介。
さらに、LB300/LB500の技術を活かす機械側の特徴として、「リニアモータ+1nmスケールフィードバックよる高精度・高応答性」、「フルガード+冷却システムによる長時間精度安定性(※オプション仕様)」、「オペレーションに合わせて自由に配置を変えられる自立式操作部」を挙げた。
業界でも先駆的な取り組みを行い、特に高精度加工の分野では広くユーザーから好評を得てきた牧野フライスでは、今後はさらに、回転工具では実現できないサブミクロンオーダーの微細加工分野へ進出し、ユーザーにさらなる付加価値を提供していく。
レーザ加工機では、今回の発売開始を起点に、短パルスレーザ加工機など機種ラインアップを拡充し、特に次世代の加工として期待されている微細孔加工や、機能表面加工において、同社がこれまで培ってきた機械精度とモーションコントロール技術を複合させていくという。
井上社長は、「約10年前からシノヴァ社の優秀な光学や水ノズルを機械技術でサポートする中で、レーザ加工の分野で参入経験がなかった当社はシノヴァ社とともにユーザー開拓を行ってきた経緯があった」とした上で、質疑応答では、ニコンがDMG森精機の工作機械にレーザスキャナーを供給するなど近年の業界動向にもふれ、「競合他社の動きは全くの無関係であり、当社は10年前から着実に準備を進め、レーザ技術を学び、いよいよ独り立ちをする。牧野フライスのオリジナルブランドとして、リーダーシップをもってこの分野に参入していく」と言及した。
2020年12月28日