ユーザー通信220号 1面-2面:モノづくり・社員・設備 愛知・岡崎で『粋』揚々! 鈴木工業
モノづくり・社員・設備 愛知・岡崎で『粋』揚々!
鈴木工業
「群を抜いた設備力」に国内外からの工場見学絶えず
夜の愛知県岡崎市洞町では、南北に貫くメイン道路沿いに、全面ガラス張りの建物が間接照明に映える。
「思い入れのある設備ばかりなので、外から見えるようにした」と話すのは、鈴木工業の鈴木貞晴社長。
スタイリッシュな「工場に見えない工場」
従来、日本の工場のイメージといえば、グレーや濃緑といったカラーが支配するが、そういったイメージを打ち破るスタイリッシュな「工場に見えない工場」だ。しかもそれは魚市場の敷地内にある。
鈴木社長は、「工場なので、こういうデザイン(黒づくめ)にしなくてもよかったのだが、どうせつくるなら、コストもさほど変わらないので、洗練されたデザインにした」と続ける。
3年前に同地に本社を移した鈴木工業は、輸送車両関連資材・住宅関連資材・通信関連機器等の精密板金加工、各種試作(絞り)、各種製缶、機械加工を手掛け、岡崎市に旧本社工場の額田工場、同第2工場と合わせ3工場を持つ。
鈴木社長が二代目として就任し7年余。売上高も従業員数も倍以上となり、会社にかなりの変革をもたらせた。その経営理念を表す文字は『粋』。「粋」なモノづくり、「粋」な社員、そして「粋」な設備。
鈴木社長によれば、自社の特長として最も強調すべきは「設備力」であり、周辺地域では群を抜いた設備群で、愛知県はもとより、全国に点在する精密板金工業会やシートメタル工業会といった団体が、他県より工場見学に頻繁に訪れている。
同社は、レーザーマシンやレーザー溶接、パンチ・レーザー複合機、ベンディングマシン等々を複数台、機種によっては30台弱設備する。なかでも、発振器9kW仕様のファイバーレーザー加工機は、愛知県に2台しかない希少な機械で、鈴木工業ではシステムアップし夜間自動連続運転を可能にしているなど、アマダ製の超ヘビーユーザーだ。
通常時は、「1ヶ月で1万種類の製品をつくる」工場の見学には、アマダを介して、中国や韓国、最近ではインドといった海外からも来訪も多い。
「メーカー様(アマダ)の展示会場に行って機械を見るよりは、実加工をしている現場で、問題点や課題など、様々な生な声が聞ける」と好評であり、「そういった意味でも、そこそこ知名度が上がって良かった」と自負する。
これだけの設備群を揃えたのは、「私は基本、お客様の要望に必ず応える。仕事は絶対に断らない。正直、やれない案件、手掛けたことのない仕事もあったが、ひとつ返事で『やれますよ』と回答する」との信条による。
「金額云々ではなく『やるか、やらないか』、そこからどうしていくか考えて、全てこなしてきた。それが自分たちのノウハウになり、自信になる」。
従業員の平均年齢は30歳台前半と非常に若くパワーがある。
「ものづくりなので設備は不可欠。お客様に対して設備がないとはいえない。どんな仕事が来てもオールラウンドな体制づくりで今に至っている」。
設備力と対応力、「そのうえで低コスト、さらにデリバリーまで行う」ことから、「逆にいえば、お客様にとってはメリットしかない」と鈴木社長は胸を張る。
そんな中、7月1日着工で近隣に新工場を建設する。完成は今年11月末だ。
新工場着工で溶接・大型粉体塗装需要に臨む
本社工場が、「私が計画なしに設備を入れるものだから、手狭になってしまって」と苦笑する鈴木社長だが、新工場では溶接に広く場所を確保し、さらには塗装を手掛ける。
「いま、塗装の需要がかなり多い。周辺に塗装業が少ないこともあるうえ、塗装の取引においてはなぜか、上下関係について古くからの慣習もあり、営業に出れば、塗装の需要が食い付いてくる」。
塗装の中では大型立体物(長さ4500㎜×幅2500㎜×高さ2500㎜)の粉体塗装、溶剤ブース、焼き付け乾燥等を行う。また、「配電盤で弱いといわれるのが下処理。この近辺では対応できる事業所も少ないので、リン酸亜鉛被膜が優先的に取っていく仕事。そこを設備し、営業ツールとして使っていく」と挙げる。
塗装単体のみならず、塗装から板金への需要喚起にも期待を寄せ、「現状では年間約3千万円を塗装だけで外注しているので、その取り込みと、物量をさらに増やしていけるトータルを考えれば、お客様にとってメリットのあるコストを提供できる」と見ている。
「ものづくりに正解はない」柔軟な対応力
同社の年間投資額は、「少し前までは必ず売上高の6%と決めていた」ものの、現在は先行投資が結構上回っており、人材についても昨年だけで12名採用している。
「ひと昔の前の設備と今の設備では、ものが全く違う。それほど優れているので、投資する価値は十分にある。その最たるはスピードと自動化、つまり生産性。設備が違えば物のつくり方がガラリと変わるので、柔軟に変えていかなければならない。ものづくりに正解はない。昔の常識なんてぶち破ればいい」。
鈴木社長は新たな設備導入にあたり、その動機や決め手を「実は、そこまで深くは考えていない」と前置きしつつ、「さまざまな加工を行う上で、既設の機械と特色が同じような、系統が同じような機械は購入しない。あとはもう『直感』。私は購入が早い。これだなと思えばすぐに買う」とふれる。
そういったなか鈴木工業では、一部、マシニングセンタ(以下、MC)も設備している。昨年、OKK製立形MC『VM76R』を導入した(額田)。
同社では元々、少量ながらも自社の板金に組み込むような切削物の仕事があり、これまでは外注していたが、どこかのタイミングで切削加工も手掛けたいと考えていたところ、折しも、「切削工場経験者を迎え入れたこともあり、このタイミングでMC、ワイヤカット放電加工機(アマダ製)、CNC高速細穴放電加工機(韓国・HANKOOK製)など、一気に、ひと通り切削マシンを揃えた」という。
まだ稼働率としては限りなく低いのだが、設備が「ある」と「ない」では大違いであり、「たとえば北海道の事業所がネット検索で『この大きさは、ここならできる』と見つけていただけたり、どこでどう繋がるかわからない。会社として機械単体の償却とは考えず、グロスとしてプラスになれば、それでいい」と考える。
とはいえ今では、部品加工の単品受注にも結構動きが出てきており、「このパイをどんどん拡張する」方針で、研磨含め、レベルの高い仕事は、「まずは中国とのパイプを活用している。資本力とマンパワーなどあらゆる規模が桁違いであり、中国の部品加工のレベルは、かなり高い」と説明する。
「昨年末にかなり大口の仕事が入り、物理的に不可能と思えたが、このルートによって完遂できた。『なんとか、やってしまう』というところに当社の強さがある」。
このような切削加工については、精度の高いものから引き受けて中国ルートでこなし、仕事量が増えてくれば自社内に人を増やし、設備を導入し、切削加工単体だけでも、結構なレベルに上げていく方向性は、新工場での溶接・塗装構想の先駆けともいえる。
一方で、「生産は設備投資をすれば物量は増やせるが、困るのは設計」と案じる。現状、10名のCAD/CAM担当者が従事するなか、「2次元の紙図面から、3次元でのモデリングが必須というものづくりの仕組みづくり」への注力、邁進にも言及した。
「当社の目指すところは決まっている。いまは新型コロナ禍の時期ではあるが、我々には目指すゴールがあるので、このような一過性の問題は全く心配しておらず、どんどん営業をかけ、市場を大きくしていくよう進めていく」という鈴木社長の姿勢は、まさしく「粋(意気)揚々」といえようか。
2020年7月2日