ユーザー通信 214号:デジタル加工の現時点(前編) サンドビック・コロマント デジタル加工製品担当 河田洋一氏インタビュー
デジタル加工の現時点(前編) サンドビック・コロマント デジタル加工製品担当 河田洋一氏インタビュー
「工具メーカーではサンドビックが最も強力にデジタル技術にフォーカスしプッシュしている」
新規投資(新工場・新ライン立ち上げ)には新規性のあるものを ―
高まる「製造のデジタル化ありき」の機運
センサ内蔵防振工具『Silent Toolsプラス』が日本機械工具工業会技術功績大賞受賞
10月9日に開催された日本機械工具工業会の令和元年度秋季総会では各賞発表が行われ、サンドビック・コロマントの「Silent Toolsプラスの開発」が技術功績大賞を受賞した。その表彰式に登壇した河田洋一氏は、近年同社が強く押し進めている、いわゆる「デジタル加工製品」における、日本国内の専任担当者だ。「毎月2回程度は、全国何処かしらでセミナーや製品説明会を行っています」という河田氏に、今回は技術的な側面よりはむしろ、当事者として肌で感じている周知具合、認知度、浸透度合の「現時点」を話してもらった。
― そもそもサンドビックの「デジタル推し」が始まったのはいつ頃
河田 2016年のJIMTOFから展示を含め本格的に開始しました。デジタル加工ソリューションを総称して『CoroPlus』(コロプラス)として、随時市場導入・展開しています。
― デジタル加工製品の範疇、定義とは
河田 その定義は正直、難しい。ひと言では言い表せませんが、当社は工具メーカーなので、当然、デジタル技術を使った工具が中心になります。ただ、それだけではなくソフトウェアにもデジタル加工製品の定義を広げています。
その意図するところは、ものづくりのスタートから終り(設計→工程計画→作業計画→製造物流→機械加工→検証)までの流れにおいて、トータルで効率改善の提案をすること。工具メーカーなので機械加工の部分がコアの領域とはなりますが、それだけではなく、その前後にも工具の関係する部分はあり、そこもカバーしましょう、その時にデジタル技術を使いましょう、ということです。
― 工程全体をカバーする理由
河田 機械加工前後の工程にも、効率改善の余地はあるのではないかと考える中で、機械加工の工程だけを改善するお手伝いをしても、全体の改善効果としてはそれほど大きなものになりません。機械加工の前後もあわせて効率改善することで、トータルでより大きな改善効果を狙いましょうということです。
機械加工前(設計・計画)段階のソリューションとしては、CoroPlusツールガイド、同ツールライブラリ、同ツールパスといった3種類のソフトウェアがあります。機械加工後の部分についても、現状では未発売ですが、ソリューションの提案をしたいと考えています。
そして実際の機械加工の部分においては、工具にデジタル技術を応用したソリューションのひとつとして、今回、大賞を受賞したセンサ内蔵防振工具『Silent Toolsプラス』があります。
― そんなデジタル加工製品の日本市場への浸透具合、理解度は
河田 認知度としてはまだまだです。展示会でも「デジタル切削加工って? 一体それはなんですか?」といった反応もまだ多いです。ただ、認知度は低いといいながらも、2016年当時と現在ではその中身は変わってきているのは確かです。
この3年間で、少なくともIoTやインダストリー4・0といったキーワードについては、随分認知度が高まったと感じています。具体的にそこから何をすればいいのかとなると「まだ何をしていいか分からない」という方が少なくありません。
ですが、随分と土壌は変わったと思います。3年前はデジタル加工に対する認知度も低く、ニーズもあまり実感できないケースが多かったのですが、いま、ニーズはあちらこちらにあるなと感じています。
それは単に認知度が上がってきたのではなく、実際に日本の状況が変わってきているからです。労働人口の減少などが明確になってきているので、デジタルでも何でも使えるものは使って、補っていかなければいけないという空気が強くなってきました。
それは必ずしも日本の製造業にとって好ましいことではないと思うのですが、こういった提案をするうえでは、追い風というか、市場の理解度は上がる方向に進んでいると感じます。
― 後押し進めるうえでのポイントは
河田 デジタルといったぼんやりとした言葉だけが独り歩きしていて、具体性を持って捉えられていません。市場全体でのデジタル技術の認知度は上がりつつありますが、それと当社の具体的なソリューションが結び付いておらず、サンドビックがどんなソリューションを持っているのかという周知はまだまだなので、そこをこれからも引き続き説明していきたいと思います。
―日本の製造現場でのデジタル加工製品の必要性は向上する
河田 そうなる雰囲気、空気は確実にあります。新工場や新ラインの立ち上げ時には必ずデジタル化、自動化、自律コントロールといったキーワードが上がっています。「新規投資には新規性のあるものを」加えたいという声は常に聞こえてきます。
― 日本以外の市場での浸透具合は
河田 現状では日本は先進国の中では遅れを取っています。浸透具合が高いのは特にドイツを中心とした欧州です。通常の工具は世界同時発売ですが、デジタル関係についてはある程度マーケットを選択し優先順位をつけて導入しています。欧米が日本に先んじて導入されている点でも差が付いています。
― 同業他社の追随
河田 他社ではまだセンサ内蔵工具などの製品化は実現していないと認識しています。もちろん他社様も新規性の高い製品を出されていますが、工具メーカーではサンドビックが最も強力にデジタル技術にフォーカスしプッシュしていると認識しています。
(後編/2020年1月号へ続く)
2019年12月12日