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ユーザー通信237号 1面、2面 「宇宙教育プロジェクト」 クラーク国際✕東大✕Space BD 高校生が「CanSat」体験ワークショップ

ユーザー通信 WEB版

「宇宙教育プロジェクト」 クラーク国際✕東大✕Space BD  高校生が「CanSat」体験ワークショップ  人工衛星開発を教育の題材に  生徒主体、部活動としての「宇宙探求部」

「宇宙教育プロジェクト」 クラーク国際✕東大✕Space BD 高校生が「CanSat」体験ワークショップ 人工衛星開発を教育の題材に 生徒主体、部活動としての「宇宙探求部」

11月28日(日)、東京・新宿区富久町の成女学園中学校・成女高校を会場に、高校生が衛星開発における一部の流れを実際に体験するワークショップ=「CanSat」を活用した模擬人工衛星製作体験が開催された。

チャレンジしたのは、クラーク記念国際高等学校(広域性高等学校・本校=北海道深川市納内町、三浦雄一郎校長/以下、クラーク国際)の生徒たちで、クラーク国際開校30周年記念事業のひとつとして、今年7月からスタートしている『宇宙教育プロジェクト』の一環となる。

CanSat(カンサット)とは、飲料缶サイズの模擬人工衛星のことで、実際の人工衛星に搭載される技術を使って製作するコンパクトながらも高い性能を有し、手軽に宇宙開発を体験できる優れた学習教材である。

これを様々なメカニズム、構造、方法を見つけ、用いながら、一定の上空から落とし、降下パラシュートのサイズや重さを変化させ、降下中および着地の際に様々なミッションを行うもので、今回は課題として3つのミッションに挑んだ。

「指定された秒数内にCanSatを着地させよ!」

「CanSatを着地時に立たせよ!」

「着地時に(その衝撃を利用し)風船を割れ!」。

このような、高校生による人工衛星開発・打上げ、および宇宙をテーマにした探究学習プログラムの開発により未来のリーダー人材育成を目指す宇宙教育プロジェクトは、東京大学大学院工学研究科(東京都文京区弥生)の指導、そして宇宙産業における総合的なサービスを展開するSpace BD(本社=東京都中央区日本橋、永崎将利社長)の支援のもとで推進している。

また、プロジェクトアンバサダーとして宇宙飛行士の山崎直子氏が就任している。

クラーク国際独自のカリキュラムによるこのプロジェクトのポリシーのひとつは、あくまで「生徒主体」であること。

衛星の開発からプロジェクトの運用をはじめ、この日のランチタイムに併行し行われた記者説明会も、クラブ活動としての「宇宙探求部」内の国際広報チームが主体となり、プロジェクトの概要説明から司会進行まで生徒が担い、取り仕切った。

この記者説明会には宇宙探求部生徒、クラーク国際教員のほか、中須賀真一教授(東京大学大学院工学研究科 航空宇宙工学専攻)、Space BDの西真一郎氏が登壇した。

このように生徒が主体となり、衛星のミッション策定、衛星開発の専門家らのサポートを受けながら、打上げまでの製造、準備工程の追体験を得て、軌道上の衛星の運用を行っていく。

現在の活動は、部活動(宇宙探求部)として学内で活動している。

■衛星開発は勉強の宝庫、単なるものづくりではない

■問題解決の連続が衛星開発であり、宇宙開発

クラーク国際に在籍する1~3年生を対象とした部活動では、「衛星開発チーム」と宇宙開発の魅力を社会に伝える「国際広報チーム」、人工衛星の運用を行う「宇宙ミッション実行チーム」に分かれ、月に1回のワークショップなどに参加している。

これまでの取り組みとして、プロジェクトを開設してからまず行ったのがミッション策定で、生徒たちの衛星でどのようなミッションを実施するのかを決めるため、全国の宇宙探求部メンバー(61名、取材当日現在)がオンラインとオフラインでつながり、ミッション検討会を開いた。

検討会では参加者が複数のチームに分かれ、どのようなミッションを実施してみたいか、思い思いのアイデアをぶつけ合った。

チームごとにミッション、アイデアを決めたあと、自チームのメンバーと協力して、他チームに向けたプレゼンテーションを行った。

中須賀教授からは宇宙概論の講義が実施された。具体的には、ロケットの種類や飛ぶ原理、探査機や有人宇宙開発の歴史について語られ、質疑応答では参加メンバーからたくさんの質問があったという。

今後は衛星の開発や運用についての講義がなされる予定。

中須賀教授コメント

我々の研究室は2003年に世界で初めて1㎏の衛星を打上げて以来、13機の衛星開発を行っていますが、この衛星開発が学生にとっては非常に良い訓練の場、人材育成の場になっています。

それは、単なるものづくりというだけではなく、プロジェクトマネジメントやシステムズエンジニアリング、いろいろな国際交渉も必要など「勉強の宝庫」といえるでしょう。

その学生たちがまず取り組んだのがCanSatです。

小さなサイズで短期間製作(それでも数ヶ月を要す)したCanSatを米国の砂漠に持っていき、ロケットで4㎞まで打上げ、落とすという実験からスタートしました。

この時、学生は失敗をするのですが、その失敗が非常に良い訓練となり、その後の活動に大きな影響を与えています。

そういった数々の経験が、小惑星探査機「はやぶさ2」のプロジェクトマネージャ・津田雄一氏(宇宙科学者)やアクセルスペース(超小型衛星開発・製造企業)の中村友哉社長などを輩出していることから、人材育成の大きさを常々感じています。

CanSatとはまさに、そういった多くの人材育成の要素をコンパクトにまとめたもの、そしてある種の問題解決です。

この問題解決の連続が衛星開発であり、宇宙開発なのです。

単なるものづくりではなく、チームワーク等に加えて問題解決をしっかりと教えていきたい。

そういう目的、意義を持ったワークショップです。

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