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ユーザー通信231号 2面:Space BD 永崎将利社長独占インタビュー 宇宙を「商売、ビジネスの場」として組み立て独自のポジション確立

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Space BD 永崎将利社長独占インタビュー


「宇宙が持つ無条件のワクワクドキドキ」を最大限活用した教育事業も展開

―そういう意味では、永崎社長のいう「新しい産業をつくる」という野望、野心のような由来は、おもしろいフェーズだと思います。

永崎 米国ではNASA(アメリカ航空宇宙局)からの発注には定価で売って、しっかりマージンがとれるような形があって、その利益を使って民間で商業ベースで売る時にはディスカウント幅にしているというような「からくり」もあったりします。NASAに財力があるがゆえに、米国のベンチャー企業のほうが意外に、いかにNASAに刺さり込むかが重要視されているようです。

(民需の)マーケットで売り上げを立てていくことを基調に考えている私には、米国の人たちからすれば、「あなたは正気なのか? それとも凄いことを考えているのか?」と一時期、いろいろな人の来訪を受けました。中にはNASAの関係者も来て、「あなたは本当は何を考えているのだ? そんなことで(仕事が)回るわけはないだろ?」というような感じでしたが、新産業をつくろうと思っているわけですし、そのあたりの「漠然さ」がチャンスともいえます。そのようなビジネス好きな人は、もっと多いはずです。

―漠然としているからこそ、まだ何がどうなるか分からない、「得体が知れないから、おもしろい」ということですが、創業当初と現時点での思いの違い、そもそも『宇宙商社』の由来とは。

永崎 当社は2017年9月に創業して、もう3年半経ったところです。当初から『宇宙商社』のコンセプトは頭にあって、社名は元々、宇宙商事㈱でと思っていたのが、近しい周囲から「ちょっとイマイチではないか(笑)」との声があって再考し、最初からグローバル展開を想定していたので横文字にすればどうだろうとなった。宇宙とは、Spaceだという人もいれば、Universeという人もいる、Astroなんかもいいかもしれないし・・・

―Cosmosもある・・・

永崎 そうですね、でも一般的にはSpaceだろうとなった。では、商事会社とは何かと考えた時に、トレーディングカンパニーとかではなく、Busines Deveropment(事業開発)を行う会社だと思っていたので、BDと頭文字を並べてみたらカッコよかった(笑)、という感じで決めました。

結果的にこのコンセプトは良かったと思います。「名は体を表す」ではありませんが、やはりそれに尽きるなと。宇宙ビジネスにおいて、宇宙領域において、ビジネスオリエンテッドでアプローチしている人は、実はまだそれほど多くはなく、プレイヤーは増えているが、対象はどうしてもまだ「技術的」な部類が多い。

そんな中で当社は、宇宙を「商売、ビジネスの場」として組み立てていくことで、希少価値というか、独自のポジションを取るに至りましたが、業界的に当初公言されていたような数量の超小型衛星が打ち上って、多くのデータ量の様々な裾野が広がる・・・という、そこまでの結果にはなっていません。

 

―海外と日本では宇宙ビジネスにおける現状の違いは。

永崎 米国などはベンチャーキャピタルが勢いよく資金投入していたのが、もう次の動きで、プライベートエクイティファンド(PE=様々な発展段階にある未公開株式の企業への投資)が登場して、買収し統合して、スパック(SPAC=特別買収目的会社)での上場が起きており、日本とは違う動きになっています。

日本はまだ新しい事業者がどんどん立ち上がっており、ベンチャーキャピタルの投資力が支えている。それが何を意味するのか、米国が先に就航サイクルを回している部分なのか、日本型でチャンスがまだあるのかといった観点もおもしろい。同じアプローチをしても負ける、敵わないと思っているので、何ができるのか。そうはいっても日本のベンチャーも最大の市場である米国に刺さり込むべく米国に法人をつくり、外国人をヘッドに据えるような動きで、米国マネーの流れを取り込む形など、いろいろな分岐があります。

「裾野を広げれば、新しい知恵、資金、人材が集う」

―元々はなぜ『宇宙商社』を、つまり、衛星を打ち上げようと思ったのでしょう。

永崎 当時(3年半前)、私の感覚だと、それはあまりにも「宇宙」が限られた人にしか開いていなかったからです。もっといろいろなマインドを持った人が参画して、大企業でもベンチャー企業でも大学でも構わないのですが、裾野を広げることで「新しい知恵、資金、人材」が入ってくれば、いろいろな利用方法が生まれ、産業として広がるだろうと。

ということは、宇宙ビジネスとはまず宇宙空間にものを打ち上げないと始まらないので、そこを「安く、早く、簡単に」を提供できる事業体をつくれば、産業として大きくなるのではないか、事業性においても、そこは皆が通る道だから、そこを押さえておけば強いのではないかというのが、最初の考えだったのです。

現在の当社は、打上げ受注実績は大きくなっていますが、市場としては思っていたよりも事業として結びついている衛星打ち上げはそんなに多いわけではなく、基本的には実証実験目的での利用です。

では、どこを突っつけば宇宙産業はもっと広がるのかと思った時に、データ利用というか、「これを打ち上げれば、これだけ儲かる」という、あたり前のサイクルがまだ回ってないので、打ち上げた衛星が価値を生む必要があります。ここにも挑んでいます。

―ここであらためて、貴社の展開を整理すると、「国内外での、宇宙の利活用に関する幅広い事業」として、衛星の打ち上げ・国際宇宙ステーションの利活用を主軸とした「ローンチサービス事業」、衛星・部品コンポ開発者を主な対象とする「宇宙機器の輸出入事業」、さらには、宇宙飛行士を1つのロールモデルとした起業家育成・人材教育を提供する「教育事業」、SDGs等と掛け合わせ、宇宙を活用した新たな事業創成を目指す「宇宙利用事業」という4つをベースとしていますが、『商社』が司る教育事業とはどのようなものか、個人的には『宇宙商社』のネーミングに次いで興味がそそられるところです。

永崎 教育事業には手応えを感じています。これは、宇宙飛行士の心構えは「未知でグローバルが当たり前」のいまの社会に応用できる点がたくさんあることを活用し、JAXA(宇宙航空開発研究機構)様、Z会(増進会ホールディングス/教育事業グループ)様といっしょに、宇宙飛行士の能力定義や心構えなどのノウハウを我々が使わせていただく形で、それを基にした教材プログラムの開発などを手掛けているものです。私は教育事業でスタートした独立だったので、そこがおもしろいことに結び付いてきています。

「案件が玉石混交する状況を許容できることが当社の価値」

インサイダーとしてやってきたら、宇宙ビジネスにはいろいろなものが見えて、いま、すごくおもしろくなってきているので、さらにメンバーを増員して次々とビジネスとして回していきたい。そのためには強いチームが必要で、当社はものづくりをしているわけではないので、資金調達をしてチームメンバーを増やしている状態です。

ということで、3年半前より見えているチャンスはすごく多い。ただ、それらがいつお金になるのかは、まだ分からない。3年で利益化するのか、5年なのか、ひょっとすると20年かかるのか。それは、それぞれ仕掛けている種において、「これは短期でいけるかな、これ長そうだな・・・」といった案件が玉石混交しているからですが、逆に、その状況を許容できていることが当社の価値だと思います。
これを、一般のビジネスでの「選択と集中」や「一点突破」でといわれてしまうと、こんなにたくさんの種を蒔けないし、勝ち筋はまだ分からない。「だから、おもしろい。だから、腕の見せどころ」でもあります。いま、「どこにチャンスがあるのか?」と、人生でこんなに毎日考えている日々はありませんね。

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