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ユーザー通信236号4面 スペースデリバリープロジェクト」 Space BD 宇宙大特集

ユーザー通信 WEB版

「スペースデリバリープロジェクト」 Space BD 宇宙大特集

「商社能力+絶対的技術力」が成し得る独自のサービス

「宇宙の新しい使い方」を連打していく(永崎社長)

宇宙産業における総合的なサービスを提供する宇宙商社Ⓡ、Space BD(本社=東京都中央区)は10月19日、宇宙ビジネス拠点「X-NIHONBASHI TOWER」(日本橋室町)にて、「スペースデリバリープロジェクト ~RETURN to EARTH~ 」JAXA対象品引渡し報告会を開催し、プロジェクトに参加する国内の研究機関・民間企業6組と、技術提供した協力企業4社が出席した。

JAXAから事業者選定を受けた、Space BDのみが提供できるサービス

スペースデリバリープロジェクトとは、ISS(国際宇宙ステーション)「きぼう」日本実験棟の中型曝露実験アダプタ (ⅰ-SEEP)に搭載する新たな小型簡易曝露実験装置(ExBAS)を活用したプロジェクトで、Space BD主導で広く参加団体を募り、対象品の選定から打上げ、地上回収までのあらゆるサポートを遂行する。

第1弾となる今回は、民間企業や研究機関など計10組から集めた、研究用素材、写真、イラストなどの様々な対象品を、2021年度内に国際宇宙ステーションの補給船で輸送し、 船外実験プラットフォームにて約6ヶ月のあいだ宇宙空間に曝露する。その後ISS船内に回収、補給船で地球に再輸送し、顧客の元に戻す予定となっている。

同プロジェクトの特徴は、JAXAから事業者選定を受けたSpace BDのみが提供できるサービスを活用し、宇宙に打ち上げた物品が手元に戻ってくる点にあり、「RETURN to EARTH」とサブタイトルが付いた。

この報告会のオープニングで、Space BDの永崎将利社長は、概ね、次の内容を軸にあいさつとした。

「このユニークなサービスは、研究用途に限らず、記念品や教育目的に至る広がりを持たせた点では、世界初ではないかと考えています。そして、我々は宇宙商社と称していますが、メンバーの1/3がエンジニアである点も特徴であり、これらから成る、当社独自のサービスです」。

「さらに、部品レベルから技術的な観点でもプロジェクトマネージャーとして直接手掛けることが可能なため、価格面でも世界的にかなり競争力のあるサービスであると認識しています」。

「当プロジェクトの第二弾、第三弾はもちろんのこと『宇宙の新しい使い方』という事例をたくさんつくっていきます。それが宇宙産業の裾野の拡大と発展につながり、日本初の我々が世界で存在感を持つ、ひとつの切り口になると思っています」。

次にあいさつに立った、JAXA 有人宇宙技術部門 きぼう利用センターの土井忍氏は、「今回、様々なサンプル等の引渡し報告会を迎えられることをJAXAとしても大変喜ばしく思っています。

この取り組みについて、Space BD様に打診から1年以内に、このような形でReady to Flightの段階に来られたのは、商社としての能力プラス、下支えする絶対的な技術力にも裏打ちされて成し得たことだと考えます。

このような形で、引き続き、勢いをもって、このプロジェクトが発展していくことを期待しています」と追随した。

ISS上にあるExBAS(船外曝露実験設備)とは、縦30㎝ほどの牛乳パックサイズで、柱の表面には布などの素材やステッカー(サイズ=69×68×5㎜)を取り付け曝露を行い、柱の中には指輪、時計、靴などの小物類(サイズ=70×70×200㎜)の浮遊を行った後、地球に持ち帰ることができる。

搭載対象品の用途としては、放射線や無重力、真空、原子状酸素などの宇宙環境が素材・微生物などにどのような影響をもたらすかを調べる「研究開発」。宇宙旅行や宇宙飛行士募集が盛り上がりを見せ、宇宙をテーマとした新たなストーリー構築が可能となる中、これまでにない付加価値創出の実現を基にしたPR活動を行うことで認知獲得を期待する「マーケティング」。

生徒自身が打上げる物品を製造することで、宇宙への打上げ・曝露・回収に必要なプロセスを学ぶ、あるいは宇宙教育プログラムの実施に伴う記念品利用といった「教育」、の3つに大別される。

アロンアルファ、宇宙へ―

京都大学、福岡工業大学、そして国内外の民間企業がプロジェクト参加ユーザーに名を連ね、今回は、工業用ダイヤモンド、木材試験体とポリイミド樹脂、生体有機物剛性と微生物、QRコードを刻印したアルミ板、有名人がサインした紙の束、等々が対象品として選定された。

そんな中、今年発売50周年を迎えている瞬間接着剤の代名詞「アロンアルファ」のメーカー、東亜合成を代表し報告会に出席した安藤裕史氏は、「アロンアルファで接着したサンプルが宇宙に行って、無事、接着したまま手元に戻ってくる日を楽しみにしています」とコメントした。

ちなみに質疑応答で今回の実験を機とした将来的な狙いを問われた安藤氏は、会社として実際的な計画は未定としながらも、「昔のアニメで見た、宇宙空間で穴が開いた時に埋まるピンクの玉のような接着剤をつくりたい」と個人的な夢を挙げた。

そして、「アマビエ」も宇宙へ―

さらに、搭載対象品には、Space BDオリジナルの取り組みとして、新型コロナウイルスの完全収束を願い、疫病退散キャラクターとして名高い妖怪「アマビエ」を描いたアルミ板と、社員の氏名と座右の銘を記した社員証を、他の対象品とともに宇宙空間に打上げる。

このアマビエを描いたアルミ板は、9月6日に神奈川県藤沢市の江島神社にて祈祷を受け、地上に戻ったあとには同神社における奉納と展示を予定している。

一方、プロジェクト協力企業の中には、本紙読者である生産財ユーザーや業界にとってはおなじみの、機械メーカーや切削工具メーカーとのコラボ、共同プロジェクト等に積極的な、由紀精密(神奈川県茅ケ崎市)が参加している。

宇宙機器の製造実績が豊富な由紀精密には、JAXAとの共同開発による、ExBASの側面部分に各対象物を固定するための枠板製造が委託された。

報告会に出席した由紀精密の平野融氏は、「当社は微細加工を得意とする中、普段は宇宙関連や医療など様々な分野にチャレンジする姿勢が、Space BD様と共鳴できたと思います。宇宙機器へのこれまでの関り、培ってきたノウハウを駆使して製造しました」と話した。

なお、スペースデリバリープロジェクトの今後の展開については、「地上で創れない味わい」、「耐久性・強靭性の証明」、「宇宙タイムマシン構想」、「宇宙イベント企画」をベースに、早くも2号機以降でも新たな利用の可能性拡大が示唆されている。

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