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ユーザー通信 WEB版 ユーザー通信223号 2面:DMG森精機 上半期決算発表

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DMG森精機 上半期決算発表

ハイブリッド資本調達により財務体質強化

未検収案件が増加し第2Qは赤字、通期では10~30億円の黒字予想

DMG森精機(本社=名古屋市中村区)は8月27日、2020年12月期第2四半期(20年1月1日~6月30日)の決算発表を行った。同日夕方には森雅彦社長がオンラインによる会見に臨み、上半期のハイライトを概ね次のとおり挙げた。

全社受注は1355億円。前年同期比では39・3%減だが、1台あたりの受注金額では5・5%増加している。

これは同時5軸、複合加工機の増加、デジタル化により機械を廉売することなく、グロスマージンを確保しながら、丁寧な直販、直サービスの体制のもと、顧客に届けたことが奏功している。

7月にはデジタルツインショールーム(伊賀グローバルソリューションセンタをデジタルツインで再現)を公開し、DMG MORI Webinar(ウェブセミナー)を拡充した。

元々、工作機械はデジタルツイン(※現実世界のデータを用いて、デジタル空間に現実と双子のようなコピー環境を再現する技術)で設計しており、設計データが完全デジタル化されており、その後の製造、テスト加工、ユーザーへのプレゼンテーション、説明、立ち合い等の工程において、デジタルツイン技術を用いて、現在のコロナ禍にあっても業務が行えるよう推進している。

さらに、実際にユーザーとのコンタクトを確保するために、三密状態にならないように注意を払ったうえで、東京グローバルヘッドクォータおよび伊賀グローバルソリューションセンタにおいて、「テクノロジーフライデー」と称する少人数によるプライベートショーを開始している。

また、同日(8月27日)には、永久劣後ローン・劣後債による財務体質の強化を開示した。

決算概要は、売上高は1543億円、営業利益は24億円。09年から開始したAG社(現DMG MORI AKTIENGESELLSCHAFT)との統合に伴う、特に16年以降持ち株が76%以上になって以降のさまざまな費用が発生しており、これがマイナス30億円、うちマイナス21億円がドミネーション・アグリーメント(※ある会社から他の会社の意思決定機関である取締役会に対して直接的な指示が可能となるドイツ法制に基づく契約)に伴う経済補填額であり、その他の費用をもって最終損益としては、マイナス22億円となった。

20年12月期の予想としては、売上高を3300~3400億円と幅を狭め発表。営業利益についても70~100億円のレンジにする。マイナス50億円ほどの費用はかかるが、最終的な利益は10~30億円とし、黒字を確保していきたいとする。

業績推移では、第2四半期は赤字となった。周知のとおり同社は直接販売、直接据付を行っており、他社のようにディーラーに依頼すれば売り上げが立つというものではなく、顧客へのきめ細かいサービスと、フルターンキー、システムものを手掛ける体制にしているゆえ、最終的に検収書に顧客からのサインがなければ、現在、売り上げとして認められない状況となっている。

出荷時に80~90%の資金は回収済みだが、残りの10%が未収ということで、海外据付案件で約100億円が納入、据付済みも立ち合い検収ができず未検収だという。

その分が第3~第4Qにずれて赤字となってしまったが、3800億円を超えていた損益分岐点が現在約3千億円強になっており、損益分岐点の引き下げに注力し、精度が出てきつつあると考えている。

営業利益の増減分析では、昨年上半期の営業利益200億円に対して、プラス要因として、粗利益の改善で15億円、デジタル化による立ち合い検収などデジタルイノベーションによって12億円、人件費(森社長以下全社員が報酬・賃金カットを行い)が90億円。一方、マイナス要因は数量減での287億円等で、上半期の営業利益は24億円となり、なんとか黒字を確保した。

08年の世界金融危機(リーマンショック)との比較では、リーマンショック直前のピーク時に売上高は2千億円を超え、営業利益も300億円を超えていた。この当時はまだ森精機製作所単体での数字だったが、それがリーマンショックにより33%となり、利益もマイナス269億円となったが今回の新型コロナ禍では、直近のピークは米中対立が明らかになる2年前の売上高5千億円。これが3300~3400億円と、今回は66~68%で収まっており、利益についても赤字になることはない。

主な要因として、受注地域では08年当時は中国や欧州で弱かったが、それが現在は全世界にうまく分散していること。

業種別では、同社が名古屋へ本社移転し数年が経った08年当時、自動車関連への食い込みが成功し比率が非常に高かったが、ここ数年は東京グローバルヘッドクォータのオープンや欧州での活動も盛んになることによって、一般産業機械、航空宇宙、全世界の中手企業、金型等、業種別の分散化、多様化も進んだこと。

機種別ではもっと明確であり、立形マシニングセンタ単体での販売といったような付加価値の低い業種はほとんどなくなり、同時5軸、複合加工機、横形MCのシステム仕様、超音波/レーザ加工機など超先端技術等に変遷するなど、大きく様変わりした。

さらに、太陽工機、マグネスケール、サキコーポレーションといったグループ会社の受注高安定と、顧客ベースの増加により、サービス、パーツ等が約1千億円の安定収入となっている点に子会社での300億円を加え、1200~1300億円が、本業の工作機械のセールスサービス以外で収入となっていることが、リーマンショック当時に比べ落ち込みを少なくできている要因だとしている。

その背景を森社長は、「海外輸出の08年当時は全世界のディーラー網で行っていたが、現在は国内を除き、全て直接販売を行っている。道半ばではあるが、世界で直接販売、直接サービス、直接アプリケーションの体制を構築している」と強調した。

 

そして、注目度の高いハイブリッド資本調達による財務体質強化については、「資本性のある永久劣後ローンと永久劣後債を500~700億円発行した。これにより株主資本比率を本年末にて35%以上、Net D/Eレシオ(※長期の支払い能力=安全性を見るときに使われる指標)を0・5以下ということで、東証上場トップ500社の平均値並みにもっていくことを実行する」と言及。質疑応答ではこれに関する問いが複数挙がり、注目度の高さを伺わせた。

「この手法を選んだ理由は? 金利も高くなるのでは?」、「AG社の株式買い取りに伴った有利子負債に充当するということだが、新型コロナ禍の非常時で現預金も減少するなか、手元資金の保証という意図はあるのか?」との質疑に対し、それぞれ次のように応答した。

「これよりもオールインコストでやや低金利な方法もあったが、やはり資本に組み込まれる点が非常に重要である」。
「4月にAG社の大口株主からポートフォリオの組み換えのために現金化したいとの要望を受け、それを銀行からの短期借入金で応じ、今回、劣後ローンにすることで安定するということ。キャッシュフローに関しては、上半期はマイナスとなったものの、通期ではプラス10~20億円くらいになる。グループで減価償却とリースだけで約270億円あり、今年の設備投資では150億円ほどになっているので、この部分などでも資金は回っている。ふだんのコミットメントラインと当座貸越しの枠は十分持っており、そこで回している」。

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