ユーザー通信236号 1面 トップが語る 日本アイ・ティ・エフ 守口秀樹社長
トップが語る 日本アイ・ティ・エフ 守口秀樹社長
移転統合、海外と一体となったFC事業の成長/非エンジン・新分野への進出、デジタル技術でCS向上など・・・「新しい○○への挑戦」実践中
DLCコーティングのリーディングカンパニー、日本アイ・ティ・エフ(本社=京都市南区久世殿城町/以下、ITF)にとって今年は、群馬・前橋工場に金型用DLCコーティングの技術移管と京都・梅津工場の久世本社工場への移転統合といった再編が続く転機の年となった。
そんな同社について本紙では、7月号から4回にわたり特集的に紐解いてきた。森口秀樹社長のインタビューで掉尾を飾る ――。
【聞き手=本紙・植村和人】(敬称略)
――そんな2021年のスローガンは『V2025元年 新しい〇〇への挑戦』
森口 V2025とは当社の中期プラン(2021年から2025年までの事業計画)を指します。〇〇は文字通り「マルマル」で、その空白は社員それぞれが自分で考え埋めてほしいということです。このため、あえて○○としました。
〇〇には「事業展開」や「販売手段」、小さくいえば「機能アップ」や「工数削減」、大きくいえば「新事業」や「デジタル活用」といった文字が入るのかもしれませんが、従業員がそれぞれの立場で新しいことに挑戦するきっかけになればと考え、今年のスローガンとしました。いずれにせよ、単年度で終わる話ではなく、この挑戦には継続的に取り組んでいきます。
――3つの社長方針
森口 このスローガンのもと、
【1】お客様に喜ばれる移転統合と海外と一体となったFC(ファインコーティング)事業の成長
【2】開発技術の円滑な量産立ち上げと非エンジン・新分野への進出
【3】デジタル技術によるCS向上、原価低減、品質安定化、新事業創出、を掲げています。
――【1】のうち、「お客様に喜ばれる移転統合」とは
森口 梅津工場の久世本社工場への移転統合が7月に完了しましたが、最低限の目標はお客様に迷惑をかけずに、約束の納期どおりに従来の品質を供給することでした。
この目標は計画どおりに事故なく安全に進みました。
さらに「喜ばれる」という面では、工場統合を契機とした品質向上を目標としました。
不良を低減し納期遅延を少なくすることでお客様の満足度を上げる、さらにはクリーン化による品質向上、量産部品のコントロールのし易さを目指しました。
――それに続く「海外と一体となったFC事業の成長」とは
森口 ITFは基本的に国内事業を手掛けてきましたが、親会社である日新電機は海外でFC事業を展開しています。
海外の事業は日新電機の単独出資ですが、国内のITFは日新電機51%と住友電気工業(以下、住友電工)49%の共同出資と、それぞれ事業の成り立ちが異なります。
従来はどちらかといえば住友電工が軸となってきた事業ですので、比較的、国内は住友電工の技術と住友電工向けの仕事がメインでした。
ところが海外は住友電工を目指した仕事ではなく、自分自身で仕事を獲得しなければならなかったという歴史的背景があります。
このように成り立ちが違った結果、得意とする商品に違いが現れ、国内でお客様にその性能を高く評価頂いている金型用DLCコーティングを、海外ではこれまで積極的には展開していませんでした。
この考え方を変え、国内で当社の強みとなっている金型用DLCコーティングの海外展開を、まず中国からスタートさせました。
今後、タイ、ベトナムでも始めていきます。
高性能が定評ITFのDLCコーティングに新機軸
■ 前橋に加え海外でも展開スタート
■ EV用途で「かなりおもしろい特性が期待できる」
前橋工場での業容拡張が順調に進展「技術陣の頑張り」で金型用DLC技術を計画通りに京都から移管
新領域として純増を期待する事業とは・・・
森口 現在、欧米と中国を中心に急激なEV化が進んでいます。
今後EV化によりエンジン生産が減少すると当社の事業にも悪影響の出ることが懸念されます。
一方でEV化によって車体の軽量化が進むと、アルミ材料の採用が増加すると考えられます。
このため、アルミの加工に適したDLCに強みのある当社にとっては売上増加が期待できます。
また、EV化されても減速機のギアは減りません。減速機用のギアはDLC部品としての見方、取り扱いができ、ギアへのDLCコーティングの採用を期待しています。
DLCコーティングによるギアの性能向上については、既に機械学会で発表していますが、次のような優れた効果があります。
まず一つは疲労限の向上です。疲労限が向上するとより大きな荷重に耐えることができますので、ギアの小型化が可能となります。
そして小型化は減速機の軽量化につながります。
また、潤滑性が向上して摩擦抵抗が小さくなりますので、エネルギー損失を削減できます。
軽量化とエネルギー損失の削減はEVの駆動力である電池の消耗抑制につながりますので、EV用ギアとDLCコーティングの相性はとてもいいと感じています。
このようにかなりおもしろい特性がDLCには期待でき、EV時代にも必要とされる技術であり、新領域として純増を期待しています。
――『開発技術の円滑な量産立ち上げと非エンジン・新分野への進出』を要約すれば
森口 これまで当社が得意とするDLC量産部品は、バルブリフター、ピストンリング、といったエンジンに関係する部品へのコーティング加工がメインでしたが、これからは非エンジンといった、いわゆるSDGs(持続可能な開発目標)に通じる動きへの取り組みが必要となります。
ちなみに年内を目途に、SDGsを意識した2030年までの新しいカンパニービジョンをつくる動きを始めました。
SDGsをもっと身近なもの、自分のものとして取り組む社内の雰囲気づくりが目的です。
装置メーカーならではのIoT化を推進
――『デジタル技術によるCS向上、原価低減、品質安定化、新事業創出』を要約すれば
森口 ITFは装置メーカーでもあるという特長を活用します。
国内のコーティング企業で装置を内作し販売する会社は限られているだけに、当社の大きな強みといえます。
その意味で当社は、装置と併せてのIoT化を進めやすい環境であり、すでに自社の全てのコーティング装置に社内開発のソフトウエアを実装してIoT化を実施済みです。
これにより、傾向管理によるトラブルの未然防止、部品交換等での余分な補修をなくすといった観点での活用を行っています。
装置製造・販売では、平滑なDLCの成膜技術装置である『MF720』(※左上記事参照)を開発、今年5月に新聞発表し、販売および受託加工を6月から開始しています。
これはEV時代においてもトラックなどディーゼル用途でのエンジンは残っていくと予想される中で、ディーゼル用ピストンリングへのDLC化の流れに対応したものです。
この潮流に乗るべく、その用途で必要とされる厚膜DLCを平滑に成膜できる装置を開発しました。
――前橋工場の現況、事業拡張の進捗状況
森口 ほぼ当初計画どおりの売り上げ目標(従来比20~30%増)を達成、技術陣が頑張ってくれました。
売上計画の数字通りに進むかどうかは、技術的に性能がしっかり発揮されることが重要なので、最初からどういった技術を久世工場から移管するか計画的に検討し、きっちり仕事を行うことで、順調に技術移管できました。
久世工場の技術を前橋工場に移管し、品質が仕様通りに発揮されるのを確認した上で、お客様にも性能評価いただけたことで順調に進んできたということです。
実力発揮は自動車部品の需要回復あってこそ
前橋工場は生産能力的にも自動車部品を主体としてきたので、そこが回復しなければ本当の意味で前橋工場は実力を発揮できません。
しかし、新型コロナの感染拡大や半導体不足などの影響で自動車の生産は低調であり、完全に回復するにはしばらく時間がかかりそうです。
そこで、前橋工場にDLC金型技術を移管し、金型向けの地場需要をしっかり獲得して事業拡張することを考えました。
お客様にとっては納期短縮などメリットを感じていただき、我々としてはそれを売りに新たなお客様を開拓する戦略です。
性能競争力的に優れている当社のDLCコーティングを試してもらえば、効果を感じていただけるので、間口を広げるよう努力していきます。その手段が積極的な展示会出展です。
幸い、現在は新型コロナの感染が収束しており、今がチャンスだと思い、拡販活動に注力しています。
さらに近日中に当社ホームページをガラリと一新します。
前橋工場での金型向けDLCコーティング加工ができるようになったことをアピールするほか、そのことを記念したキャンペーンの実施にも取り組んでいきます。
2021年11月29日