日本アイ・ティ・エフ 営業部・宇都宮氏、技術部・荻原氏に聞く

ITFの「水素フリーDLC」コーティング、深耕


DLCコーティングのトップメーカー、日本アイ・ティ・エフ(本社=京都市南区久世殿城町、森口秀樹社長/以下、ITF)では、今春より前橋工場(群馬県前橋市総社町)での事業を拡張し、コーティング加工の業容拡大へ向け、順次、体制構築が進んでいる。

そんな中で同社は、9月29日~10月1日に東京ビッグサイト・青海展示棟で開催された「二次電池展/バッテリージャパン」に出展し、前橋工場が強みとする水素フリーDLCコーティング ジニアスコート『HA‐DLC』と金型需要を掛け合わせ、関東以北でのHA‐DLCの全面展開およびプレゼンス向上のアピールに臨んだ。

それに先立ち、同社営業部 金型営業グループ グループ長 兼 北関東営業所 所長の宇都宮英樹氏と技術部 工具・金型技術グループ グループ長の荻原健氏を京都本社に訪ね取材し、今回の二次電池展出展というフィルターを通しながら、HA‐DLCおよびITFのDLC膜の特長や用途について深耕した。

 

「コロナ禍の影響により展示会がことごとく延期や中止になる中、二次電池展は久しぶりの大型の展示会開催となります。二次電池材料を加工する際に適用できる範囲が広いコーティング膜とは、まさに前橋工場で取り組んでいるHA‐DLCです。そして、前橋工場は関東圏の拠点として、HA‐DLCを金型用途に業容拡大中であることを強調したい」と2度目となる出展動機を語った宇都宮氏。

ダイヤモンド・ライク・カーボン=DLCとは、その名のとおりダイヤモンドのような特性を持った硬質炭素膜であり、その種類も多岐にわたるが、「一般的に使われるDLCのほとんどは水素を含有しており、どちらかといえばグラファイト寄りの膜質となります」と荻原氏。だが前橋工場で金型用として拡販を狙うHA-DLC膜は水素フリーDLCであり、「ダイヤ寄りの特性を非常に多く持った膜となっています」と続ける。

膜硬度としては、Hv6000~7000相当と非常に高硬度であり耐久性にも優れている。荻原氏は、「従来のDLCと比較すると、水素を含有していないため耐熱性にも優れており、従来では250~300℃で膜自体が持ちこたえられなくなるのですが、水素フリーであれば400~500℃の耐熱性があります」と特性にふれる。

水素フリーDLCが世に出たのは2000年頃。自動車部品へのコーティング加工で高い品質、ものづくり力を培ってきた前橋工場だけに、水素フリーDLCもやはり、自動車部品由来となる。前橋工場の操業は2005年11月、水素フリーDLCが製品化されて以来、長らく自動車エンジン部品での摩擦抵抗低減による燃費向上に寄与し、実績を重ねてきた。

それ以前は元々、DLCがアルミと凝着しづらいという性質は周知されていたものの、高硬度の水素フリーDLC膜を密着力良くコーティングすることが難しく、さほど使用されてはいなかったという。「30年ほど昔は、水素を含有した従来の、いわゆる『黒くて柔らかいDLC』が大半でした。水素フリーDLCは探さなければ見つからないような技術でした」と宇都宮氏。

その後、水素フリーDLCが普及し始めた頃でも金型への適用は想定されておらず、チタン系窒化物、クロム系窒化物がありふれる中、水素フリーDLCがアルミなど非鉄の軟質金属に対する相性が非常に良いとの評価が高まり、当時で2、3社、現在では10社ほどが水素フリーDLCコーティングを手掛けることができると公言するほどになった。そういった中でITFは現在、トップシェアを誇る。

宇都宮氏は、「逆にいえば、攻勢をかけられている側だということです。だからこそコストパフォーマンスやコーティング後の面粗度を良好にすることなどで、当社の強みと立ち位置を維持し、盛り返し、さらには幅を広げていきます」と意識している。

なお従来のDLCと水素フリーDLCとではコスト面での変わりはないが、違う観点では、「従来の黒いDLCでなければ使えない」といったものがまだ世の中にはたくさんあり、一概に、どちらが高品質とはいえない世界である。ゆえに決して、水素フリーDLCが従来のDLCからのバージョンアップタイプというわけではなく、独立した別物と考えたほうがよいそうだ。

宇都宮氏が続ける。

「ただし、金型や工具といった相手の材料を加工しようとする用途では、水素フリーのほうが適しているのは間違いないといえます。それは、相手材を加工すれば温度はどんどん上昇しますが、それに絶え得る、擦れて摩耗に対しても耐摩耗に優れている。硬さと耐熱温度の高さ、この2点が金型としての耐久性に適しています」。

前橋工場ではこれまでも電池材料の加工でも実績を積んでいる。EV全盛時代となれば、その用途数は圧倒的に増え、適用範囲は確実に増える。EV、プラグインハイブリッドには、もれなく電池が必要だ。

「それらを取りこぼさないための二次電池展出展でもあります。さらに、自動車の軽量化においても、フレームに使われる骨組みの一部、バンパーの内側補強部分といった『そこそこ大型』なものが鉄系の材料からアルミに、あるいは樹脂部品に置き換わります。そうなれば、前橋工場に昨夏導入済みの大型洗浄装置(500角・100Kg対応)の存在が、ますます活きてくることになります」(宇都宮氏)。