第7回 私だけのスカウティングレポート

第7回
私だけのスカウティングレポート

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タンガロイ
木下聡社長

「開発者」比率は全従業員の10%

IMC流「枠を超えた発想を持つ」に学ぶ

英語教育など「自前」の人材育成も「長い目でのブランディング」


【リード】
 JIMTOF2016で、『倍速切削』を実現する最新イノベーションを提案したタンガロイ(本社=福島県いわき市好間工業団地)。出展ブースにて、木下聡社長に同社の「人材」にまつわる話(戦略、採用、育成など)をランダムに聞いた。
 2008年のIMCグループ入りから丸8年。タンガロイの過去・現在をふまえながら、木下社長は、「企業風土の変革が完了しつつある」と口火を切った―。


【本文】
 ―IMCグループ会社となりタンガロイ「らしさ」は変わった?
 木下 変わりましたね。人の問題も含め、結果的にはすごく良かったと思っています。「言われてやる」人ではなく、自分から「何をやりたい」という姿勢へ、8年が経過し、ほぼ完了しています。
 元々は日系企業として、それこそ「どっぷり」と日本文化の中で生きてきましたが、輸出が65%を占めるなか、「真面目に、素直に」取り組む日本人の良い面は守りつつ、「アグレッシブにチャレンジする」姿勢に変わりました。いまではまた、ピラミッド的な体制ではなく、役職で人を呼ばないフラットな組織となっています。私も社長ではなく「木下さん」ですから。
 ―企業風土の変革では当初、腸捻転のような時期もあった?
 木下 そうですね、難しかったと思います。私は2014年に社長に就任したので、変わりかけていたのを少し変えただけですけど、当初はやはり語学(英語)と「考え方」の問題がありました。何かにつけ素直に「はい」というのは日本人の良さでもありますが、そうではなく、「自分からアグレッシブに提案していく必要性」へとマインドを切り替えるには、少し時間がかかったと思います。
 ―マインドの切り替えは、元々タンガロイの人材にその素養があったのか、それともIMCの方針が強力だったのか?
 木下 どちらかといえば、6対4の割合でIMCの方針ですね。正直、最初は「強制」だと思いました。ですが、結果的に世界のマーケットで成功しているメーカーの方針、行動は間違っていないと、ある時期に信じ始めたのです。
 製造方法においても、かつてのタンガロイでは自動車メーカーのような1個流しでしたが、いまはロット生産になっていますし、工具材料で勝負していたISOインサートなど、そうではなく、「枠を超えた発想を持つべき」だと学びました。そのなかで、日本人の精密さや真面目さが完成度を高めています。
 輸出が98%を占めるイスラエルの企業には、世界で活躍していくなかでの「商売の上手さ」と、「自分たちで差別化できるものはどんなものでも開発し、それをつくるのが製造」だという姿勢が宿っています。我々にも、「開発は枠を超える、製造はそれをなんとかつくらなければならない」という企業文化が息づき、回り始めました。

企業成長のベースは「良い製品の開発」

 ―人材の構成面で、企業文化が変わった象徴は
 木下 開発者の構成比率がどんどんと増えていることです。人員として全従業員(1500名強)の約10%、開発に関する投資額は売り上げに対し約5%です。「良い製品を開発する」ことは企業成長のベースになるので、「良い発想が眠らないように」しています。これが企業文化が変わった大きな要素です。
 開発、製造や販売含め、いろいろなことにチャレンジしたいとの思いは過去からあったと思いますが、旧来は(やりたくても)そういう企業文化ではなかった。それを実現化させてあげるように導く。人は成功体験をすれば「またやろう」となりますから。
 ―良い意味で「調子に乗る」ということですね。
 木下 実際に、若い人材が何億円の売り上げをつくるような製品を開発し、成功体験をしています。製造部門は開発されたものを、どれだけコストパフォーマンス良くつくるかをミッションとします。

開発陣は「平均年齢28歳」の若さ

 ―開発部門の平均年齢、トレーニングについて
 木下 特に開発陣は若く、平均年齢は28歳くらいです。機械系技術者のトレーニングは自社(自前)で、工作機械を使っての実践など、1年をかけて行います。実際にマシンで切削工具を使うことにより、お客様の立場に立って考えられるようになる。このことが発想を生むと思っています。
 いま、学生のカリキュラムには、「自分で工具を使う」がもう入っていない。そういったなかでどうしていくのか? お客様のなかでも「工具技術者」の数が減ってきているので、工具メーカーがそこまでサポートをしていかないと、実際の、本当の意味での切削工具の使い方がわからない状態です。

自動車メーカーへの駐在で「人材育成」

 ―自動車メーカーへの駐在は、現在でも続いている?
 木下 はい、これも人材育成のひとつといえます。お客様の現場で2~3年働き、調達の仕事も手掛けますが、エンジンや足回りの加工、カイゼンやラインオフを行うことにより、また成長する。そのあとに当社の開発部門に戻す。
 逆に、開発で実績が出たあとに、自動車メーカーや航空宇宙産業メーカーに在籍し、そしてまた開発に戻る。これはお互いのメリットになっています。
 ―この方針は昔も今も変わらず
 木下 むしろ、かつてよりも「深く」なってるといえます。それは技術サポートも含めた、マーケティング活動を重要視しているからです。

「人はスピードで成長する」

 ―IMCグループのマーケティング活動、特に、コンペティター追随の「速さ」には定評がある
 木下 コンペティターの情報収集は日々、技術者にアナウンスしており、「それ以上の、超えるような」製品を開発する動機づけはしています。製品開発では、かつて、2~3年かかっていたところ、いまでは半年くらいでほぼ開発できるようになっています。世の中はスピードの変化も激しいですし、やはり人材も、スピードというもので成長していくとの思いはあります。
 また、トライ&エラーではなく、3Dプリンタの活用など、解析技術を使い始めたことも速さにつながっています。そこが差別化できない限りは企業存続はできません。開発に関しては投資を続けていきます。

重要さ増すメーカー営業としての技術教育

 ―営業マンの人材育成について
 木下 国内の営業職(国内の営業マンの人員構成比は全従業員比8~9%)については、他メーカーより多い人員を配置していますし、技術者協力をしています。単に商品を届けたり、値段交渉といった「かつての商売スタイル」ではなく、本当の提案型セールスエンジニアになるための人材教育が必要です。
 「切削工具はもっと難しくなってくる」なか、お客様の工具専門知識をフォローするため、提案営業を推進するためには、営業マンが「メーカー営業としての技術者」でなくては困ります。そのため、新製品が出るたび、頻繁に、技術営業の研修を施しています。実際に営業マンも旋盤やマシニングセンタの前に立ち、新製品を学んでいます。
 ―提案=「生産性を上げる」ですね
 木下 そう、1・5倍、2倍のアウトプットを出すことにより「信頼関係」が結ばれます。eコマースでの購入では「自己責任」が先に立つ。営業の技術教育は年間通じ多くの回数を実施しているが、これからも非常に重要になってきます。
 ―対象は
 木下 全員です。新入~2、3年目までの社員は月2日の合宿にてケーススタディを実施。3年目以降の社員は新製品の特長や使い方、産業別に対するアプリケーションなどをマスターします。いわき本社工場と名古屋工場で、エンドミルならエンドミルが折れるまでといった、そういった実体験が大事です。

「日本人が居て、役に立つ国と立たない国」

 ―海外の人材戦略
 木下 海外には750名がいますが、うち日本人は10名です。欧州には日本人は居ませんが、これもマーケティングの考え方からで、「日本人が居て役に立つ国と役に立たない国がある」からです。タンガロイは現在、海外に27の現地法人を擁していますが、全ての社長が現地の人です。
 日本メーカーの工具は世界で一番だと思います。だからこそ、ターゲットが海外の日系企業ではなく、現地企業をターゲットにしたとき、日本の工具をローカル企業に使っていただければ、まだまだマーケットは日本メーカーでカバーできるとの考えからです。日本ではあまり使われない工具でも、世界に出してみれば使われる。そういった情報を得て開発につなげる。こういうマーケティングの展開には現地の人が適任だからです。

新卒より主流になりつつあるキャリア採用

 ―新卒採用について
 木下 今春は20名強の採用でした。来年度は少し減らす予定ですが、その間、それ以上にキャリア採用を行っています。そのあたりにも「外資系の考え」が浸透してきています。かつては主流だった「新入社員を育てる」ことは、それはそれで重要であり継続しますが、いろいろな産業、業種での経験を活かし転じてもらえる人を探しており、年間10~20名は採用しています。
 海外ではキャリア採用の方が主流ですから、だんだん日本も変わってきたということです。キャリア採用ではさまざまなアクションの取り方があるので、いろいろな企業文化を経験した方で、「タンガロイがいい」と思ってくださればありがたい。
 ―キャリア採用では英語は必須?
 木下 タンガロイのなかで海外とのコミュニケーションは英語なので、英語は話せた方がいい。なお、当社では1名、日本語は話せないネイティブの米国人を英語教育担当として採用しており、社内で「自前で」英語教育を行っています。
 近年では、このJIMTOFブースのような設計や、広告など全て「自前」で、ブランディングをつくりあげています。自前の人材育成も、「長い目でのブランディング」ということです。